戦略策定の流れ
(2)いつまでに登るのか = ビジョン策定
ビジョンは、基本理念を具体化したものです。何年後までに、何を達成するのか、具体的な目標を掲げることで、夢物語が現実的な話になってきます。
この点に関して信長がどこまで具体的な目標を家臣団に示していたのか、残念ながらわかりませんが、信長が好んだ敦盛 - 人間五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり 一度生を享け、滅せぬもののあるべきか - にある50年、信長は1534年生まれなので、1584年を天下統一の目安としていたのではないでしょうか(本能寺の変は1582年)。
< ファーストリテイリング(ユニクロ)の場合 >
2020年に世界No.1のアパレル製造小売グループになる
『コア・コンピタンス経営―未来への競争戦略(ハメル&プラハラード著)』![]()
に次のような文章があります。
全社員の尊重と忠誠を勝ち取ることのできる目標が必要である。めざすものは単に他と違うだけでなく、めざすに値するものでなければならない。アポロ計画は(中略)焦点の強さを持っていたが、これに加えて感情に強く訴える側面も持っていた。一九六〇年代のうちに月にたどり着くという目標を発表するに当たって、ジョン・F・ケネディは国民に新天地開拓というアメリカ人の天命を思い起こさせた
ファーストリテイリングの柳井 正氏が掲げるビジョン『2020年に世界No.1のアパレル製造小売グループになる』はまさに、『焦点の強さ』を持ち、『服を変え、常識を変え、世界を変えていく』という理念を思い起こさせるものです。
(3)どこから登るのか = 全体戦略策定
ビジョンを達成するために、何をしていくか。「戦略」は全体戦略と個別戦略と分けて考えます。
全体戦略は信長が決め、個別戦略は秀吉や柴田勝家、明智光秀といった司令官クラスの武将が決めます。
全体戦略では、朝廷との関係、諸大名との外交関係、宗教対策、経済政策、後継者育成、賞罰など内政面と、誰をどの敵に当たらせるか、部隊編成など軍事面でどうするかなどを定めます。
信長が目指す山は『天下に武を布く(しく)』こと。
そのために長く仕えていた武将のリストラも行いました。対本願寺を指揮していた佐久間信盛は1580年に追放され、それに伴い、信長軍は再編成されました。
信長、そして跡継の信忠直轄軍の他に方面軍を配備し、能力を認めた武将を司令官としました。
北陸方面・柴田勝家、関東方面・滝川一益、畿内方面・明智光秀、中国方面・羽柴秀吉、四国方面・織田信孝とし、各方面を並行で制圧できるような体制を敷きました。
信長の強みは、意思決定と行動のスピードに加え、動かせる兵の多さ、そしてそれを指揮する能力の高い武将がいたこと。方面軍の配備により、強みを効率的に発揮することができました。
一方で信長の弱みは、猜疑心が強く、残酷な所業も多く、人の恨みを買い易いところ。最期は重用していた明智光秀の裏切りに遭ってしまいました。
信長の場合は、この部分で警戒を怠りました。明智光秀より前にも浅井長政・荒木村重をはじめ信長を裏切った大名・武将はいます。1580年の佐久間信盛追放で信長は、十九条から成る折檻状でとがめました。折檻状で信長は、佐久間信盛が格別の待遇の身でありながら努力をせず、成果を出さなかったと責めました。信長からすると、こんなによくしてやっているのだから、それ相応の働きをするのは当たり前と思っていた節があります。荒木村重や、明智光秀に関しても、その働きに見合う処遇をしていると信じて疑っていなかったのでしょう。
信長は時に冷酷な処置も辞さず、『天下布武』に向け、全体戦略を前進していましたが、弱みによって天下統一は夢まぼろしに終わりました。強みを全面に活かし、弱い部分に目を向けず進むのか、弱い部分をじっくりと立て直して段階的な施策をとっていくのか、ビジョンに対して方針を決めるのが全体戦略になります。わかりにくければ、山をどこから登るのか、つまり、東から登るのか、西から登るのか、誰と登るのか、荷物を何にするのか、いつ登るのか、を決めるのだと考えればいいと思います。
< ファーストリテイリング(ユニクロ)の場合 >
グローバル化、グループ化、再ベンチャー化
ビジョンである『2020年に世界No.1のアパレル製造小売グループになる』実現に向けた全体戦略(全体方針)としてファーストリテイリングが核として挙げているのが『グローバル化』『グループ化』『再ベンチャー化』の3つです。
(1)グローバル化
「グローバル化」とは、市場、商品、オペレーション、人材、経営等、あらゆる面でのグローバル化を推進することを意味します。(出所『有価証券報告書 2005年8月期』)『世界No.1のアパレル製造小売グループ』になるには『売上高5兆円』が必要としており、売上拡大に『グローバル化』は欠かせないものです。
『世界No.1のアパレル製造小売グループ』という山に、どこから登るのか?
この問い掛けへの答えが『グローバル化』であり、日本からだけではなく、中国を中心とするアジア、それから欧米方向からも『世界No.1のアパレル製造小売グループ』という山に登るとファーストリテイリングでは方針決めしています。
『グローバル化』にあたっては、ユニクロの海外展開だけでなく、『グループ化』とも関係してくる『M&A』を活用していくことがこれまでの『M&A』実績やファーストリテイリングのIRレポート
『M&A』以外にも、『グローバル化』にあたって、グローバルで活躍できる人材不足を補うために、ファーストリテイリングでは、2010年1月に『民族大移動』と謳って、ファーストリテイリンググループの本部社員全員に海外勤務を順次経験させる方針を公表しています。
(2)グループ化
「グループ化」とは、M&Aを通じ、成長性のある関連事業へ進出することにより、ユニクロとの相乗効果を高め、グループ企業価値の最大化を達成することを意味します。(出所『有価証券報告書 2005年8月期』)『世界No.1のアパレル製造小売グループ』という山に、日本だけでなく海外からも登ることがわかりました。そして山を登る仲間は、M&Aした企業です。
しかし、『売上高5兆円』にはそれだけでは足りません。『M&A』による新規事業獲得という『足し算効果』を『掛け算効果』にすることが不可欠となります。
グループ間の相乗効果を活かすためにグループの再編や、グループ間の協力活動が求められます。
海外M&Aは、2010年2月に『セオリー事業』の組織再編、一方の国内M&Aで言えば、一度は株式会社GOVリテイリングに『g.u.(ジーユー)』事業と靴事業を集約しましたが、靴事業に関しては2010年2月に『ユニクロ・シューズ』の展開を始めたユニクロ傘下に移すなど、こちらも再編を進めています。
そして『g.u.(ジーユー)』事業ではユニクロのSPA(アパレル製造小売企業)ノウハウを着実に受け継いでいるようですし、主要ブランド『アンラシーネ』『ザジ』を持つ株式会社キャビンでも、ユニクロのインフラを使った商品企画を試みています。
(3)再ベンチャー化
「再ベンチャー化」とは、大企業体質から、高収益、高成長の革新的な企業グループへ転換することを意味します。(出所『有価証券報告書 2005年8月期』)『成功は一日で捨て去れ(柳井 正著)』
悪い意味での大企業とは、つまり意思決定が遅く環境に対応できずにもがいている、図体の大きいだけの企業である。ここから脱却するには、創業時の原点に戻って再びベンチャー企業からやり直す必要がある。何もかもがたいへんだった創業当初に戻れ、と言っているわけだ。既に触れた2つの方針『グローバル化』『グループ化』と比べ、意識改革とも言える話ですが、2010年3月1日のファーストリテイリング東京本部移転と、iPhone 1200台の導入やWi-Fi環境構築やその他システム構築は『再ベンチャー化』のための施策という気がします。 「即断、即決、即実行」を良い企業の条件とし、意思決定を速くすることを目指す中で、小規模な組織ならいざ知らず、適切なITインフラの整備は大企業にとって外すことのできない車輪と言えるからです。
「全体戦略」と「個別戦略」の違い
ファーストリテイリングの場合、ユニクロの知名度が圧倒的に強いとは言え、ユニクロ以外にも2009年の990円ジーンズ発売で注目を集めたg.u.(ジーユー)をはじめ複数の事業を持っています。それらの集合体(グループ企業全体)がどこに向かっていて、それぞれがどのような位置付けで進むのか、どの部分でどんな協力をしていくのか、全体を取りまとめるのがファーストリテイリングであり、「全体戦略」となります。最も注意しなければならないのは、「全体戦略」策定段階では個々の事業の細部に目を向けるのではなく、全体を俯瞰した目で物事を決めることです。
「全体戦略」と次ページで触れる「個別戦略」の違いを理解するのにわかりやすいのは、ファーストリテイリングが発表するニュースリリース
< 参考文献 >
- この1冊ですべてわかる経営戦略の基本(Amazonの商品ページ

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- 戦略フレームワークの思考法(Amazonの商品ページ

)
- コア・コンピタンス経営―未来への競争戦略(Amazonの商品ページ

)
- 成功は一日で捨て去れ(Amazonの商品ページ

)
- 信長の天下布武への道(Amazonの商品ページ

)
- 信長軍の司令官(Amazonの商品ページ

)
- 信長と消えた家臣たち(Amazonの商品ページ

)







